大学生バンドあるあるを唐突に思い出したのでしたためる。
何故か大学生バンドのあるあるを思い出したのでしたためることにした
思い出の記録である。他意はない
大学生の時始めて「軽音サークルのライブ」というものに行った。
何かにつけて春夏秋冬のライブ、季節のイベントライブ、◯◯でライブなどなど様々なイベントがあった。当時軽音楽部というものをよく知らなかった私は、ボーカルの友人、知らずに付き合ったがベースをやっているらしい当時の彼の誘いで始めてその世界に足を踏み入れたのだった。
正直音楽には元々全く興味はなく、好きなバンドと聞かれても特に何もない。
私が聞いていた音楽といえばTVで流れるメジャーな曲か古いアニソン程度しか知らなかったからである。そんなわたしに「今度◯◯でライブやるからきてよ〜」と声をかけてきた友人は普段はコロコロ笑う小さくて可愛らしい子なのだが、歌うときはドキッとするほどセクシーかつ、暴力的でありながらも均整のとれた声で様々な曲を歌いこなすちょっとした歌うま有名人だった。
そして呼ばれるがまま導かれた薄暗いライブハウス、音楽に本当に疎いわたしはライブ=武道館やアリーナといった大規模収容施設という短絡的な発想だったが、繁華街の一角に場所があり、ここほんとにやってる??と思うようなちいさなライブハウスだった。
「このチケットで1ドリンクもらえるからね」と受付と思しき人に言われ中に入ると音楽好きそうな風貌の若者達がギターがどうだとか対バンがあーだとか話していたが当時のわたしには言葉の意味がさっぱりわからなかった。慣れた様子で小上がりな場所にあるカウンターでドリンクをオーダーする学生に倣い、わたしも何かをオーダーした。初めてのことで緊張して何を頼んだのか覚えていない。
さて、所謂”ライブ”では何をして過ごせばいいのか正解もわからず、どこかに座ろうにも壁際に数える程度の椅子しかない。対して「ツウ」の彼らは立ったまま飲み交わし音楽談義を始めている。それを見た自分は「わたし、何も気にしてませんから」というすました表情を作り機材が運び込まれる舞台とまわりの「ツウ」をぼんやり見つめることしかできなかった。
古着屋で調達したのであろう、個性の強い服やデザイナーズブランドと思われるアシンメトリーの形のモノトーン服に身を包み「◯◯の新曲が〜」「ギターが〜」と話す様に自分はちっとも溶け込むことができなかった。当時のギャル系の服、巻き髪、長く伸ばしたネイルに付けまつげで、自分はここにいるべきキャラではなく馴染めないとわかっていたからこそ表情を引き締めて作り「強気なわたしは何も気にしていないわよ」と顔に何度も書いた気概で開演を待った。完全に他所からきたお客様である。正直内心ビクビクしていたし、明らかに浮いてしまっていたのでこの先が怖くなりすぐに帰ってしまいたかった。
そうしていると、会場は暗転し、ぼうっと赤や橙の照明が灯る。
わたしを除く観客達は「ヒュー」という声や指笛みたいな例のアレと共に、突然始まった音楽に合わせて一斉に前へと動き始める。ステージ前は軽く”黒山の人だかり”になっていた
何だこれは!?
ライブでのマナー?なのか。何一つ知る由もないわたしは客席後方で既に飲みきってしまった紙コップを傾けながらスカした感じで舞台に目をやるしか為すすべがなかった。
どうするのが正解なのか?何もわからないがコップを持つ指だけ音楽に合わせて小刻みにリズムをとっておいた「参加しています」という最低限の消極的な意思表示で自分の存在意義を示すしか方法が思い浮かばなかったのである。
暴れ踊る観客、ヒートアップするステージ、聞いたことのない「ロキノン系」の音楽・・・わたしの人生には今まで何一つ縁がなかった世界が目の前にあった。
そして始まる友人と彼の出番「前に来てね!」と念を押されていたことを思い出しこれもマナーの一環と言い聞かせステージに近づいた。
近付くだけであとは小刻みにリズムをとってみたが自分が何をしているのかわからないのと、周りの動きに対して自分は正解に近いのだろうか、わけもわからず空間に馴染む答え合わせが気になる気持ちが加速していくだけだった。
ハイになってギターを歯で弾き仰け反るメンバーのトランス状態をこれが”音楽にノッている”ということなのかと勝手に解釈している間に気がついたらその日のライブは終わっていた。
その後も毎回ボーカルとして参加する友人やたまにベースで出演する彼のために何度か自分が勝手にアングラ認定したライブハウスというものに通った。何度通っても「前の方に行ってノる」の真似事しかできなかったが「モッシュ」という言葉が何をさすのか、「対バン」とはどういうことなのかを現場で確認し学習した。
いつしか卒業に向け就職活動や当時の彼との別れでいわゆる「大学生の軽音バンドのライブ」というものにも行かなくなって年数がたつが今でも大学生の間であの仕組みは継承されているのだろうか。
社会人になり思い返してみればあの体験はあの時にしかきっとできなかったことだと思う。「素人の趣味のバンド」と片付けてしまえるようなものかもしれないが確かにあの時ほの暗い照明の下で輝く友人にわたしはうっとりしたし、あそこでしか味わえない不思議な空気感に抵抗しつつも何度か足を運んだことで少しは馴染むことができていたのではないかと感慨深く思うのであった。
が、最後まであのノリにはなれなかった。
前に出て叫ばなくてもなんやら手を振り上げて音楽に身を委ねなくても、一緒になって頭を振ったりしなくても、わたしはいち観客として参加できていたような気がしている。今でもどうするべきなのか正解は全くわからないままである。
あれってどうするのがベストなの?