合コンで会った男にアムウェイの勧誘を受けていると思って話を聞いていたらニュースキンの勧誘だった

ある年の秋、冬にさしかかると感じた冷たい雨が降る日のことでした。

アムウェイの勧誘だと思って話を聞いていたら実はニュースキンの勧誘だった。まるで人の話を聞いていない。

 

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ある日、仕事の昼休みに出歩いているとふと目があった人がいた。

たまたま地元で一度合コンをした顔が濃い目の男性である。会社の制服に身を包み自信たっぷりに闊歩する彼は非常に魅力的に・・・見えなかった。

元々の印象が最悪だったからである。自分の肩書きを鼻にかけ、趣味は海外旅行、ブランド物のバッグを小脇に抱え、ブランド物の洋服に身を包み収入について豪語するが実はケチで、当時まだ学生だった私たちに割り勘を強要するレイコップみたいな顔の男だったからである。今までいった合コンの中で不快だったものランキングに余裕で上位に入る。

 

しかし何年かぶりにたまたま、地元ではない昼の繁華街で彼に再開した。

1秒でも早く座って昼ごはんにありつきたかったが、あまりの偶然にテンションが上がって立ち話をした。どうやら出張でよくわたしの赴任先に訪れるらしい。

何となく連絡先を交換し、何となく今度ご飯を食べようとありきたりな社交辞令を交わし、何となくその場は解散した。

 

その日の昼過ぎの仕事中、ふと友人が話していた内容を思い出した。

「昔合コンした◯◯って人いたでしょ、今あのひとマルチ商法にハマってるから気をつけて!この前わたしもしつこく勧誘されたから・・・!わたしは勧誘の途中で怒って帰ったけどね!」

やや怒り気味で私に語りかけていた彼女の姿を思い出した。あの美しい友人がもし広告塔として商品を勧めていたら思わず手を伸ばす人も多くなるのではないかなぁと。

彼もそれを目論んで彼女に熱烈にマルチへの参加を促したのだろうと。あの目立ちたがり屋な男の見え透いた思考に苛立ちつつも良くない企みに面白半分で冷やかしをしたいわたしの好奇心は、何故か「もしわたしも勧誘を受けたら罠だとわかっていても聞きにいってみよう」という危険な判断をしてしまった。いままでその手のマルチ商法の勧誘にあったこともなく、街での宗教のビラ配りも何故か避けられ、通っていた大学内で流行していた非常に悪質な謎の半島系ゴリ押し宗教にも、何故か自分だけ声をかけられなかったことを思い出し「人並みに勧誘されたい」と不思議な気持ちが芽生えていたのであった。(多分見た目が怖かったからやめとこうって思われた)

 

そして冷たい雨が降る秋の日、赴任先の地方の海産物を活かした料理を提供する小洒落たバルで彼と待ち合わせることにした。が、彼は遅刻した。

 

仕事を急いで終え、空腹感を抱えたまま待たされている状況に苛立ちを隠せなくなってきた時彼が店にやってきた。相変わらず私服姿の彼は「おしゃれ」を豪語するだけあってブランド品で固めてやってきた。

着くなり「そういえば最近前◯◯ちゃん(私より先に勧誘された美人の友達)と俺の話した?なんか俺のこと言ってなかった??」と確認したが適当に濁しておいた。

どうやら勧誘に失敗し友人が怒って去ったことで自分がマルチ商法を勧誘しまくっているという悪評が立つのを危惧しているらしい。そんなに気になるなら勧誘自体やめておけばいいのに。

そして食事をしながら仕事の話になり時はやってきた。

「どう?今の仕事って充実してる?」

きたーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!

この一言を聞いた時、かの有名なファミレス包囲網みたいなものを曳かれあっというまに囲い込まれて前後左右からの圧に負けて何かの書類にサインさせられ、手始めに洗剤や歯ブラシを買わされ最後は段ボールを抱えながら在庫と借金に苦しむ凄惨な光景を想像している最中に、彼は遠回しに話を続けた。

「今副業で自営業をやってるんだけど、軌道に乗ったらそっち一本ですすめていきたいと思っている・・・」「いつでも好きな時間に海外に行けて自分でスケジュールを組める経営者っての?(笑)」「夢ってある?」「今の会社っていつまで保証されてると思ってる?」「最近サプリを飲んだら風邪ひかなくなってさ・・・」

どこかで聞いたことがある「これチャ◯ンジでやったやつだ・・・!!」ばりのセリフを手を変え品を変え彼は語り続けた。

今の収入に満足している?将来に不安はない?そんな誰しもが抱えているであろう当たり障りのない謳い文句で自分の”事業”がいかに素晴らしいかを彼が語っている頃わたしはやっとありつけたアボガドに夢中になっていた。もうすこし話を聞いて色々引き出しておくべきだった。

勧誘されてみたいと思って誘いに乗ってみたものの、彼の話口調からはいまいちアムウェイの魅力は感じられず、いつ洗剤を買わされるのかと、今日の野球の結果はどうなったのだろうばかりが気になり始めた。

一応体裁だけでも反論をしておこうと「今の仕事はやりがいがある、おもしろい、収入にも満足している」と言っておき、好きな時間で海外旅行に行きたくないか?と聞かれたが海外旅行はキライと適当に返しておいた(本当は大好き)

 

しかし彼の元来のケチさと、こう言っては失礼だがなかなかのご年齢の男性が実家暮らしでお金も使い放題な部分を鑑みれば彼のブランド品まみれ&海外旅行に行きまくり華やかSNS(こっちは過去にいった海外の写真を何回も行ったみたいに小分けにし掲載してる)の内容に胡散臭さしか感じないのであった。

テメーはプレゼンがダメだな、2点だと勝手に採点して解散したくなったとき、とうとうこれ見よがしにポケットからサプリを取り出し目の前で飲み始めた。

形式的に「それ何?」と一応親切に話をふっておくと、待ってましたと言わんばかりに彼は「このサプリを飲んだらさ、風邪ひかなくなったんだよね!」と話し始めた。そんな特効薬あるなら世界中に出回っていると思ったが彼曰く「抵抗力が上がる」らしい。ふーん。非常にアバウト。風邪とは無縁の健康体の自分だったので1ミリの興味もわかなかった。

何よりサプリが大粒で飲みにくそうだなとしか感じなかったが、直接的な勧誘も受けない程度のプレゼンと、わたしが終始不機嫌に小さな反論と話を逸らすことで終わった。

彼は何がしたかったんだろう・・・勧誘なのだろうか。

あまりにも盛り上がりのないプレゼンと語り口調に彼の前途はそんなに明るくないだろうと勝手に邪推した。仕事柄口八丁の営業マンの流麗な言い訳を毎日聞いているので営業マン達の言葉の操り方に比べると彼の勧誘は非常にチープに感じるばかりだった。

店を出て帰ろうとした矢先、わたしが巻いていたマフラーがブランドものだったことにいち早く気がついた彼は「そのマフラー△△のだね、いいね」と言い残して駅へと消えていった。

 

なんともスッキリしなかったので帰りながら某大手製薬会社のMRをしている友人に電話して「抵抗力あげるサプリあるんだよね〜って言われたよ!」と報告すると「そんなものは存在しないよ、抵抗力あげる薬とかないしそもそも薬事法違反」とバッサリ切り捨てられた。あのサプリは何だったんだ・・・。

 

あくる日、私より先に勧誘された友人に「この前◯◯さんにアムウェイの勧誘っぽいのされたよ!」と報告したら案の定「会ったらダメって言ったでしょ!」と怒られた。

彼女は本当に優しい。そして続けた「あれアムウェイじゃなくてニュースキンよ!!!!!!!!!!!」

 

わたしは終始全く人の話を聞いていなかった。

アムウェイの勧誘はされていない。

 

なんでもいいからそのサプリで遅刻癖を直してくれよ・・・彼にはそんな感情しか抱けなかった。